HRBPの機能・能力と開発の難しさ

HRBP: Human Resource Business Partner.

先日、HRBPの実務をされている方々との対話をした。元コンサルで事業会社のHRBPにキャリアチェンジした方や、事業会社の人事部門でHRBPに異動した方など。

HRBPは、元々は、ミシガン大学教授のデイビッド・ウルリッチ氏が、人事、リーダーシップ、組織論の分野で数多くの研究成果を発表している中で提唱した概念。らしい。

彼の著書「MBAの人材戦略」(原題「Human Resource Champions」)の中で、人事部門の役割とHRBPについての役割も整理している。らしい。

そこでのHRBPとは、企業の目標と合致するよう、経営層のパートナーとして組織・人材戦略の策定を行う人事プロフェッショナル。らしい。

筆者の感覚では、日本では主に、事業部側に密着して人材組織開発を行う役割、のような認知が多いような気がする。

それはつまり、ある程度の大きな企業組織で、コーポレート機能と事業機能が存在し、事業機能、つまり事業部が複数あるばあいに、事業部側に伴走して人材組織開発をする役割だ。

HRBPを、事業部に密着伴走して人材組織開発をする役割と仮定すると、では、HRBPにはどのような機能や能力が求められるのか?

先日のHRBPの方々との対話のなかで、そのような対話もした。

筆者の考えるHRBPが担う機能としては、人材組織開発そのものだ。それは、まず、大きく人材開発と組織開発に分けられる。

人材開発と組織開発は、似ているしオーバーラップもするが、大きく異なる部分もある。

まず、大きく異ならない領域での話しになるが、

人材開発でも組織開発でも、企業の中で人を活かすことは同じだ。そのために適材適所や適所適材を進める。そのためには、人や組織を知ることと、事業や業務を知ることの両方が必要となる。

HRBPには、人組織側から来た人、つまり主には人事部門から来た人や、反対に事業側から来た人、つまり事業部門から来た人の、両方が主にアサインされる。

もちろん適性や新たな能力開発をしながらではあると思うが、どちらかというとHRBPというHRのカンムリが付いている役割なので、人事部門側の人が多い印象だ。

人事部門から来た人は、事業業務理解が新たな自分のチャレンジであり、事業部門から来た人は人事機能の一部の習得が新たなチャレンジだったりする。

今までの自分自身の領域、人事側だけ、や、事業側だけ、ではなく、もう一つの領域にも精通する。それが第一のハードルだ。

では、両方の領域を知れたらそれでHRBPとして機能するのかというと、そんなに甘くない。

次は、その両方の領域を観ながら変革を進めるという能力が必要となる。現状を分析し、あり姿を描き、現状からあり姿に変革するための道筋をつくり、実行のためにコミュニケーションし、実行してゆく。そのチカラが必要となる。それが第二のハードルだ。

その変革については、人材開発は、個人の変革が人数分存在する。相対的に小さい変革だが数は多い。

組織開発は、大きなチームや組織の変革が1つから数個存在する。相対的に大きい変革だが数は少ない。

この変革を進める能力は、コンサルやプロマネが得意としている能力でもある。であるので、人組織と事業業務の両方に精通し、変革してゆくコンサルのような能力が必要となる。

この時、変革については、ゼロイチで変革を描き、実行のための設計をし、実行するというプロセスの大きく3つの領域があるとすると、上流は上級者でなければなかなか上手くは描けないと思われる。であるので、既に存在しているプロジェクトのプロマネができます、だけの人にはゼロイチで描くことは難しいだろう。

このようにHRBPを機能と能力でざっくりと観てみると、それらの知識やスキルを身につけられる機会は、1つの企業で勤務していてもなかなか機会が無いように思える。であるので、自ら転職してキャリアチェンジしなければ身につけられないのではないだろうか?

日本でHRBPがまだまだ苦労されている背景には、そのようなHRBPの機能・能力定義のあいまいさと、必要な能力開発の環境的難しさがあるように思える。

そしてさらに、まだなかなか認知されていない難しさもある。

人組織側と事業業務側に精通し、変革のチカラを持っている人材開発の経験者が、組織開発を何の苦労もなくできる、ことはほぼ無いだろう。人材開発と組織開発では、持つべき能力が部分的に異なる。

人材開発は、個々人にフォーカスする。その人が、どのような人なのか、意志があり、能力があり、行動があり、それらを把握し、活かすためにどのような仕事がよいのか、またその逆で仕事に対して誰が適任なのかを、個々人にフォーカスして動かす。

キャリアコンサルタントやコーチが得意とする領域なのだろう。

対して組織開発は、集団にフォーカスする。この集団、それはチームであったり組織であったり、その集団はどのような集団なのか、どのようなミッションでどのような協働なのか、その状態や集団としてのパフォーマンスを把握し、ミッション遂行をよりしやすくするために活動する。

もちろん、集団を画一的に観るのではなく、集団を構成する要素である人にもフォーカスしなければならない。

ここに、単純系と複雑系の考え方を入れると、個人という人材は複雑系ではあるが、人材開発としては単純系として捉えて良い部分が多い。

対してチームや組織は複雑系だ。チームや組織が複雑系であるがゆえに、個人という人材は相対的に単純系として扱える、とも捉えることができる。

単純系と複雑系の違いは、別テーマで書いているのも参考にしてほしいが、単純系を対象とした問題解決は、因果関係で解く。設備故障などはその最たる対象だ。

日本の製造業で従業員がスキル研修などで身につける問題解決スキルは、単純系の問題解決スキルだ。

対して、複雑系は相関関係だ。系の中の要素が互いに影響し合って状態を変化させる。それは因果関係のように一方向の影響ではなく、双方向であり多方向である。

ある要素は結果であり同時に原因にもなりうる。さらに要素自体が人という変数でもある。ある一瞬を切り取ると因果関係が見えやすいが、時間経過でそれらは変化するために一度捉えた因果関係が崩壊する。

であるので、単純系の問題解決スキルは複雑系の一部分には適用できるが全体には適用できない。この、複雑系の問題解決スキルを持たずに、単純系の問題解決スキルだけで組織開発に挑むと、機能しなくなる。それが、人事部門で人材を扱っていた人が、HRBPとして組織開発を担った際の、最大の壁ではないだろうか。一般的なキャリアコンサルタントやコーチには、そのようなチームや組織を包括的に見てダイナミズムに対応する能力は、どの程度あるのだろうか?

人材開発と組織開発領域で10年以上の経験を持つ筆者は、経験コンサルと事業会社での実務経験もある。だから、その全体像が観える。と、感じている。

いかがだろうか。