管理会計のさみしさ その②

管理会計の構築や高度化が進まないのは、率直に、管理会計を構築するスキルを持っている人が少ないからだと感じる。

管理会計を構築するためには、会計の知識と、業務の知識の両方が必要となる。その両方を使える人が企業の中に多くないのではないか。

もし管理会計を構築するのであれば、筆者は、まず、直接原価計算を採用する。つまり、変動費と固定費で費用を分けて観るのが直接原価計算だ。

それを、財務会計と同じ、または必要な部分だけは近い状態で勘定科目を定義する。そうすることで財務会計との連動は可能になる。まあ、ほとんどの企業は直接原価計算を採用しているとは思うので、その財務データは使用できる。

では、管理会計として成り立たせるためには、何が必要か?

それは、仕事の見える化だ。

変動費は比較的わかりやすい。単価と数量で表現できるからだ。

たとえば、しょうゆラーメン1杯が1000円だとすると、材料費はおそらく30%程度ではないだろうか。10杯分の麺が単価300円であれば、1杯分で30円。チャーシューは100枚分の肉が1000円であれば、1枚10円。チャーシューは標準では1杯に1枚しか入れないが、チャーシュー麺は1300円で4枚入る。標準より300円売価が上がっても、チャーシューの材料費は30円高くなるだけだ。

問題は固定費だ。固定費は、どのような仕事によって発生しているのか、どんぶりでしか把握していない企業が多い。たとえば標準のラーメンとチャーシュー麺をつくるのでは、材料費が異なるが、チャーシューを作るためにはチャーシューを煮込んだり切ったりする仕事が発生しているはずだ。その仕事を上手く割り当てられていない。たとえば、同じ肉でも、シンプルに煮込んだチャーシューと、ブロック肉の状態で表面を焼いてからじっくりと煮込むのであれば、シゴトは異なる。手間暇かけたチャーシューで売価を上げて、そのチャーシュー麺を食べてくれる人が増えればよいのだが、シンプルチャーシューよりも割高なので食べてくれる人が増えないのであれば、労力が利益につながっていない可能性もある。

独り親方のラーメン屋であれば、ある程度の肌感覚で利益はとらえているだろうが、これが複雑な業務プロセスと大勢の人間が業務をする企業であると、固定費をある程度適切に見えるようにしなければ、製品別の利益・利益率が実態と乖離してしまう。

間接部門の費用をアイテム別に配賦する。アイテム別や使用別で間接部門の業務が異なるのに、一律に配賦する。そうすると、間接部門が忙しくなるアイテムの生産を増やすと、残業が多くなる。しかし、その残業が何のアイテムによって発生したのかをとらえていなければ、間接部門の費用の配賦が不正確になってゆく。

外部倉庫に中間製品を保管する。アイテム別や、仕様や、納期などによって保管日数が異なる。しかし外部倉庫を管理している企業への外注費はアイテムに一律に配賦される。

そのように、不正確な配賦によって、実態とは異なる費用・利益として見えている、にも関わらず、実態を見える化することが容易ではないため、管理会計の高度化が進まない。結果、適切な改革改善アクションが取れない。

以前支援したとある企業では、事業責任者が「下期は黒になるハズだったのに、なぜ赤なのか?」と通期の予測に疑問を抱き、管理部門へ異議を唱えた。その結果、なんと、間接固定費の配賦基準がなく、都度、人が、基準もなく感覚知で配賦していた。そのような状態では事業を強くするための適切なアクションは遠のくだろう。

管理会計は、ある程度のメッシュで構築し、定期的にメンテナンスをする必要がある。メッシュが粗いと実態が良くわからない。メッシュが細かいとメンテナンスできずに管理会計が機能しなくなってゆく。適切なメッシュと自立した管理ができる状態が求められる。自立した管理のためには、財務会計側の業務側の両方を観れる人の存在は重要だ。完璧に両方観れる必要はない。財務会計側の人が業務に少し詳しくなり、業務側の人が管理会計知識を高め、チームで対応すればよい。

と、思うのだが・・・。