1on1について思うこと。

1on1

わんおんわん。

ひらがなで書くと、いぬのようだ。

数年前まで、とても流行った、1on1。

今も流行っているのかどうか、実態はあまり分からない。

この1on1は、組織の中の、特に職位が下の者の本音を、上司が汲み取る、職位の下の人にとってとても効果的な成長促進につながる場。のような扱いだった。

そんな、1on1が流行り始めてから、もう10年以上経過しただろうか。

期待されてきたような1on1の効果を得た企業もあるのだろうが、ほとんどの企業は形骸化し、そして、全く効果が得られなかったのではないだろうか。

1on1には効果もあるし、すべてを否定するものではないが、人材組織開発を10年以上リードし、様々な企業の様々なフェーズのリアルを知っている筆者としては、この1on1の効果と無意味さは、最終的には、その多くの1on1を悲しいものとして捉えている。

そもそも、1on1は、いや、1on1に限らず、人と人のコミュニケーションのほとんどは、ある程度以上の信頼関係がなければ、高いレベルで成り立つことはない。

それは、想像するに容易い。

極端に考えるようではあるが、率直に、たとえば、無差別に人を傷つけるヤバい奴を目の前にして、誰が自分の考えや悩みを吐露するだろうか。

尊敬できない上司を目の前にして、自分の奥底にある、もしかしたら他者に知られたら人心掌握のネタになるような大切なことを、公開するだろうか。

少し言葉は汚くなるが、居酒屋で愚痴大会している若者のネタとして盛り上がるような、アホでクソみたいなマネージャー(失礼!)が、部下と1on1しても、部下が本音を言う事はない。

飲み屋のカウンターで意気投合した名前も知らないオジサンには言えることさえも、言わないだろう。

では、アホでクソみたいなマネージャー(失礼!)が、1on1で、部下の大切なことを知るためには、どうすればよいのか。

それはシンプルだ。信頼関係を築けばよい。

しかし、それは、簡単ではない。

この人には言えない、との対象から、この人には言える、になるためには、かなりの行動変容が必要だろう。

仕事の時間で、共に過ごす1か月の中で見えた、マネージャーの信頼できないような行動は、信頼出来る行動を3か月続けられたら、やっともとに戻る、その可能性が少し生まれる程度だ。

そして、可能性が見えてから、一瞬でも信頼できないような行動が見えると、再び信頼回復の時間が延びる。いや、戻るのではなく、3か月の数倍になってしまう。

そうやって、信頼できないような行動が積み重なると、信頼できるような行動が数年続かない限りは、もう信頼関係は築けないだろう。もしかすると、数年経っても、信頼できない人としてのレッテルがはがれることはないのかもしれない。

そして、組織の中には、そのような、信頼回復に数年かかるような行動をしてしまった上司が、ゼロではない。

そんな上司が、部下に、1on1しても、何が得られるのだろうか。

だから、リーダーシップではなくて、マネジメントなのだろう。リーダーシップを発揮している人にフォローするという行為ではなく、組織が定義した権限と責任を使って、役割と役割でコミュニケーションするマネジメントだ。それが極端な場合は、仕事を進めるための最小限の情報だけによるコミュニケーションだ。

マネジメントは、人間的な信頼関係が築かれてなくても成り立たせることができる。権限を使って命令することで、部下を動かせる。そのような動きを組織が定義しているからだ。

しかし、部下は、ほとんどの場合、信頼できない上司に対して自分自身をさらけ出すことをせずに、人として持っている最大パフォーマンスを発揮することをせずに過ごす。自分が搾取されることを恐れて。そして、上司は、パフォーマンスが期待値以下であることを不満に思う。

部下のパフォーマンスが上司期待値未満な要因の大きなものが、上司の信頼のなさであるにも関わらず、そのパフォーマンスが上がらない部下に責任を転嫁するのだ。

人材開発と組織開発は、似て非なるものだ。人材は組織の必須で重要な構成要素であり、組織は人材にとって自分が存在している世界そのものである。しかし、人材開発と組織開発には別々の開発のための能力が必要となる。

上司の視点で見ると、部下の人材開発がメインテーマになる。部下の視点で見ると、上司こそ人材開発の対象になる。

しかし、企業のマネジメントというしくみのなかでは、人材開発の対象はほぼ部下に限定される。

だから、組織開発が必須になる。

組織開発は、第三者視点で組織を見る。そして、必要であれば上司へのアプローチもする。組織開発は、特に第三者的な介入で実施できる組織開発は、組織内部からは見えにくい上司の問題を洗い出すことも可能となる。それは、まさに、組織開発の必然性でもある。

組織の状態によっては、上司視点で人材開発を開始するよりも、まず組織開発を先行させなければ、組織全体の発展には繋がらない場合も出てくる。

そのような組織の特性を、責任ある者は理解しなければならない。それが、責任ある者の責任でもあるのだから。

では、組織サーベイを実施すると、組織の実態は見えるのだろうか?

見えるものあるし、見えないものもある。どのような組織サーベイによっても異なる。複雑系である組織というものは、その複雑系の内部要素が実施する組織サーベイでは見えないものが多くなりやすい。そして動的に変化する組織の実態は、ある程度の頻度で時間軸での変化をとらえなければ実態が見えないことも少なくない。

そのような、外部が介入して組織サーベイした結果をもとに、上司が自らの行動を最適化することが、1on1の効果を高める前提でもあると考える。

上司であるがゆえに見えないものがある。その見えないものを外部の支援者によって見える化し、その見える化されたものを活用して個々人が行動を最適化してゆく。その最適化する行為がリーダーシップでもあり、そのリーダーシップ、セルフリーダーシップによって周囲が信頼を高めて、そしてフォローをしてゆくからこそ、1on1が効果を発揮する。

そのようなメカニズム・ダイナミズムを理解したうえで、1on1で幸せな状態をつくってほしいものだ。